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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)13426号 判決 1997年1月17日

原告

福田順一

ほか二名

被告

杉田正一郎

ほか一名

主文

一  被告らは原告福田順一に対し、連帯して金八一四万八〇一九円及び内金七四四万八〇一九円に対する平成七年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告福田啓三に対し、連帯して金四〇七万四〇〇九円及び内金三七二万四〇〇九円に対する平成七年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告山元理香に対し、連帯して金四〇七万四〇〇九円及び内金三七二万四〇〇九円に対する平成七年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告福田順一に対し、連帯して金一五六〇万一一四六円及び内金一四二〇万一一四六円に対する平成七年三月一三日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告福田啓三に対し、連帯して金七八〇万〇五七四円及び内金七一〇万〇五七四円に対する平成七年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告山元理香に対し、連帯して金七八〇万〇五七四円及び内金七一〇万〇五七四円に対する平成七年三月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自転車を押して道路を横断中に原動機付自転車に衝突され死亡した者の遺族が、右運転者に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づいて損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び争点判断の前提事実(以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す)

1  事故の発生(争いがない)

(一) 日時 平成七年三月一三日午後六時三〇分頃

(二) 場所 大阪府茨木市稲葉町一九番一三号先路上

(三) 加害車両 被告杉田誠(以下「被告誠」という)運転の原動機付自転車(寝屋川市さ五二八八号、以下「被告車」という)

(四) 事故態様 被告車が道路上の福田節子に衝突した。

2  被告らの責任原因(争いがない)

(一) 被告誠は進路前方の安全確認を怠つた結果本件事故を起こしたものである。

(二) 被告杉田正一郎は、被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に当たる。

3  節子の死亡(争いがない)

福田節子(以下単に「節子」という)は、本件事故により、脳挫傷の傷害を負い、平成七年三月二二日、高槻救急医療センターにおいて死亡した。

4  原告らの地位(甲二)

原告福田順一は節子の夫であり、原告福田啓三、原告山元理香は節子の子である。

5  損害の填補 二三一三万四四九一円((一)、(三)は争いがなく、(二)は乙二による)

(一) 原告らに対し自賠責保険金二二四四万三〇一〇円が支払われている。

(二) 被告誠は平成七年七月三日、原告福田順一に金五〇万円を支払つた。

(三) 被告誠は、節子の治療費一九万一四八一円を支払つた。

二  争点

1  過失相殺

(原告らの主張の要旨)

本件は車両対歩行者の事故であり、しかも通常道路の横断であつて、被告誠の前方不注視の程度も大きいから、過失相殺はなされるべきでない。

(被告らの主張の要旨)

節子は夜間、通行量の多い幹線道路を横断しようとしたのであるから、左右を十分注意すべきであつたのにこれを怠つたものであり、少なくとも三割五分以上の過失相殺がなされるべきである。

2  損害額全般 特に逸失利益

(原告らの主張額)

(一) 治療費 一九万一四八一円

(二) 文書料 一万五四五〇円

(三) 入院雑費 一万三〇〇〇円

(四) 入院付添費 六万円

(五) 交通費 七二〇〇円

(六) 休業損害 三万六〇〇〇円

(七) 逸失利益 二三八八万一八二一円

節子は死亡時六一歳の健康な女性であり、本件事故に遭わなければ将来一二年間に渡り就労可能であつた。また、節子は、本件事故に遭わなければ、満六五歳から平均余命の八五歳に至るまで、国民年金法に基づく老齢基礎年金年額五九万五三〇〇円、厚生年金保険法に基づく老齢厚生年金年額二六万五一〇〇円を受給できるはずであつた。そこで、その逸失利益は、その生活費割合を七三歳までは三五パーセント、それ以後は五〇パーセントとみて、

(1) 六一歳から六五歳まで

三〇一万二八〇〇円(平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、女子労働者六〇歳から六四歳までの平均年収)×〇・六五×三・五六四=六九七万九四五二円

(2) 六五歳から七三歳まで

(三〇一万二八〇〇円+五九万五三〇〇円+二六万五一〇〇円)×〇・六五×五・六五一=一四二二万六八四五円

(3) 七三歳から八五歳まで

(五九万五三〇〇円+二五万六一〇〇円)×〇・五×六・二八五=二六七万五五二四円

(4) (1)ないし(3)の合計は、二三八八万一八二一円。

(八) 加給年金 一三万一八三三円

節子の夫である原告福田順一は、節子が本件事故に遭わなければ、平成七年四月から平成七年一〇月まで、年二二万六〇〇〇円の加給年金を支給されるはずであつた。

そこで、これに関する損害額は一三万一八三三円となる。

計算式 二二万六〇〇〇円÷一二月×七月=一三万一八三三円

(九) 入院慰藉料 二〇万円

(一〇) 死亡慰藉料 二五〇〇万円

(一一) 葬儀費用 一五〇万円

右(一)ないし(二)の合計五一〇三万六七八五円から前記(第二の一5の(一)及び(三))損害填補額二二六三万四四九一円を差し引くと二八四〇万二二九四円となり、(一二)相当弁護士費用二八〇万円を加えると総計三一二〇万二二九四円となる。

よつて、原告福田順一は右金額の二分の一である一五六〇万一一四六円及び弁護士費用を除く内金一四二〇万一一四六円に対する本件事故日である平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。原告福田啓三及び原告山元理香は、三一二〇万二二九四円に四分の一を乗じた七八〇万〇五七四円及び弁護士費用を除く内金七一〇万〇五七四円に対する本件事故日である平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張の要旨)

(一)は認めるが、その余の主張は争う。

(四)は不要であつた。

(七) 節子は年金を受給されていたわけではなく、年金受給予定額を逸失利益に参入することは許されない。また、稼働分の基礎収入は過大であり、生活費割合も低すぎる。

(八) その制度、性格から損害賠償の対象とはならない。

(一〇) 原告ら主張の慰謝料額は過大であり、一八〇〇万円程度が相当である。

(一一) 一二〇万円が相当である。

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

1  裁判所の認定事実

証拠(乙一の1ないし21、被告杉田誠本人)によれば次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のように商店が建ち並ぶ市街地を東西に延びる片側一車線の道路上で発生したものである。道路の両側に歩道はなく、車の通行は頻繁であり、制限速度は時速三〇キロメートルに規制されている。事故当時、日は暮れていたが、周囲は街灯等により比較的明るかつた。

(二) 被告誠は、本件事故現場の一〇〇メートル余り西の交差点で信号待ちした後、時速約三五キロメートルで被告車を東進させていたが、別紙図面<1>付近において、対向車のライトをまぶしく感じ、対向車の周辺が暗くなつたような感じを受けたが、そのままの速度で約二三メートル進行した<2>において、約一一メートル前方の<ア>において自転車を押しながら立つている節子を認め急制動をかけたが及ばず、<3>において<ア>の節子と衝突し、被告誠は<4>に、節子は<イ>にそれぞれ転倒した。

2  裁判所の判断

1の認定事実によれば、本件事故は被告誠が対向車のライトに気をとられ、前方の注視を怠つた過失によつて起きたものである。もし前方の注視がライトによつて困難となつた場合は、直ちに減速する必要が生じるわけであり、被告誠はこれを怠つたのであるから、いずれにしてもその過失は重いものがある。

他方、節子にも交通頻繁な道路を左右の安全を充分確認しないで横断しようとした過失があり、前記道路状況を加味して考えた場合、その過失相殺率は一〇パーセントと考えるべきである。

二  争点2(損害額全般)について

1  治療費 一九万一四八一円(争いがない)

2  文書料 〇円(主張一万五四五〇円)

証拠(原告福田順一本人)によれば、原告主張の文書料はいずれも生命保険金の請求のための文書に関するものであることが認められるから、被告らに負担させるべきではない。

3  入院雑費 一万三〇〇〇円(主張同額)

証拠(乙三の1、2、原告福田順一本人)、弁論の全趣旨を総合すると、節子は本件事故により脳挫傷の傷害を負い、三島救命救急センターに救急搬送され、同センターにおいて二回に亘り手術を受けたが、意識を取り戻すことなく平成七年三月二二日死亡するに至つたこと、その間原告ら親族が付き添つたことが認められる。

右入院期間一〇日間の入院雑費は一日あたり一三〇〇円とするのが相当であるから総計は一万三〇〇〇円となる。

4  入院付添費 五万円(主張六万円)

2の認定事実、特に節子の病状が極めて重篤であつたことから考えて、付添費を認めるのが相当であり、一日あたりの付添費は五〇〇〇円と認めるのが相当であるから総額は五万円となる。

5  交通費 〇円(主張七二〇〇円)

入院付添費において評価ずみである。

6  休業損害 三万六〇〇〇円(主張同額)

後記7の認定事実により少なくとも右金額の休業損害が生じたものと認められる。

7  逸失利益 二〇七六万五六六四円(主張二三八八万一八二一円)

(裁判所の認定事実)

証拠(甲四ないし六、八、乙一の10、原告福田順一本人)を総合すると次の各事実を認めることができる。

(一) 節子は死亡時六一歳の健康な女性であり、原告福田順一と同居して主婦業に従事する傍ら、本井海苔株式会社に勤務し、年一六七万九六一七円の収入を得ていた。

(二) 節子は、本件事故に至るまで国民年金法による老齢基礎年金に関する保険料を通算三〇四月に亘り納付していた。また、節子は昭和四三年九月二日ころから昭和四四年一二月二三日ころまで美吉野化工株式会社に勤務し、その後昭和五六年九月一日から平成七年三月一三日まで前記本井海苔株式会社に勤務し、右各期間厚生年金に通算一七七月加入していた。

老齢基礎年金は、保険加入期間が二五年以上ある者が六五歳に達したときに、老齢厚生年金は厚生年金保険法の被保険者期間があり、老齢年金の受給資格期間を満たしている者が六五歳に達したときに支給されるものである(国民年金法五条、二六条、厚生年金保険法三条、四二条)。

(三) 節子が、六五歳に達したときの、年金支給額は老齢基礎年金年額五九万五三〇〇円、老齢厚生年金年額二六万五一〇〇円である。

(裁判所の判断)

(一) 労働対価分 一六六五万七七七一円

右認定事実によれば、節子は事故当時少なくとも平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、女子労働者六〇歳から六四歳までの平均年収三〇一万二八〇〇円に見合う労働をしていたことが認められ、同年簡易生命表によると六一歳女子の平均余命は二四・四五歳であることからみて、同女は、本件事故に遭わなければ一二年間の労働が可能であつたと認められ、その生活費割合は四割とするのが相当であるから、同女の労働対価分の逸失利益は右金額となる。

計算式 三〇一万二八〇〇円×(一-〇・四)×九・二一五(一二年に対応するホフマン係数)=一六六五万七七七一円(円未満切捨・以下同様)

(二) 年金分 四一〇万七八九三円

節子は既に年齢以外の点では各年金の受給資格を満たしており、本件事故に遭わなければ、六五歳から八五歳まで、老齢基礎年金五九万五三〇〇円、老齢厚生年金二六万五一〇〇円を受け取れるはずであつた。したがつて、これについても逸失利益性が肯定できる。年金がその性質上本人の生活費に充てられる部分が多いことから、生活費割合は六割と見るのが相当であり、これに基づき年金分の逸失利益について事故時の現価を算定すると、右金額が求められる。

計算式 (五九万五三〇〇円+二六万五一〇〇円)×(一-〇・六)×(一五・五〇〇-三・五六四)=四一〇万七八九三円

(三) (一)、(二)の合計は、二〇七六万五六六四円である。

8  加給年金 〇円(主張一三万一八三三円)

その性質上、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

9  慰藉料 二〇〇〇万円(主張死亡慰謝料二五〇〇万円、入院慰謝料二〇万円)

節子の年齢、生活状況、本件事故態様、入院中の肉体的苦痛も大きかつたと認められること等本件審理に顕れた一切の事情を考慮して右金額を相当と認める。

10  葬儀費用 一二〇万円(主張一五〇万円)

本件事故と相当因果関係がある葬儀費用は一二〇万円と見るのが相当であり、弁論の全趣旨により葬儀費用は各原告がその相続分に応じて負担したものと認める。

第四賠償額の算定

一  損害総額

第三の二の合計は四二二五万六一四五円である。

二  過失相殺

一の金額に前記被告誠の過失割合九割を乗じると、三八〇三万〇五三〇円である。

三  損害の填補

二の金額から前記(第二の一の5)損害填補額二三一三万四四九一円を差し引くと一四八九万六〇三九円となる。

四  原告福田順一の賠償額

1  三の金額に同原告の相続分である二分の一を乗じると七四四万八〇一九円となる。

2  右金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、同原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき金額は七〇万円と認められる。

3  よつて、原告福田順一の請求は、1、2の計八一四万八〇一九円及び内金七四四万八〇一九円に対する本件事故日である平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

五  原告福田啓三及び原告山元理香の賠償額

1  三の金額に同原告らの相続分である四分の一を乗じると、三七二万四〇〇九円(一四八九万六〇三九円÷四)となる。

2  相当弁護士費用は三五万円と認められる。

3  よつて、同原告らの請求は、各原告につき1、2の計四〇七万四〇〇九円及び内金三七二万四〇〇九円に対する本件事故日である平成七年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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